夕方から渋谷医師会で会議をしていたら、おフクロから携帯に連絡。7時過ぎたのに午後の散歩に出たオヤジがまだ帰宅しないとのこと。いつもは暗くなる5時前までに帰宅するので、心配して連絡してきたとのこと。幸い身体的にはそこそこ元気なので、一人でどこにでも行ってしまえるオヤジだが、最近まだらボケがあって実は心配していたところだったのだ。とはいっても、待つしか仕方ないので会議に出ていたら、8時過ぎに帰宅したとのこと。早速電話して本人と話す。
「すまんな、心配かけたみたいで」と、オヤジ。
「うん、まあ、無事で何よりだけど、何をしてたの?」
「ああ、実は名刺を頼んでいて・・・」
「は?名刺? 今のオヤジに必要ないだろう?どうして名刺なんか・・・」
「いや、大学の同期会とか会社のOB会とか、まあ、必要な時があるんだ」
「・・・・」
「日本橋の知り合いの印刷屋に頼んだんだが、場所が変わっていて迷ってしまったんだ」
「・・・わかった・・・」
現役時代、バリバリの猛烈サラリーマン(今は死語だけど)だった彼にとって、名刺というのは特別な思い入れのあるものなんだろう。人と会う時に自己紹介しつつ、何千、何万回渡したはずだ。でも、すべての肩書きから引退した今の彼にとって、名刺に書くべき肩書きはすべて「元」のつくものばかりで、自分の名前と現住所くらいしか書くことはないはずなんだけど、いったいどんな名刺を作ったんだろう。ケアハウスに入っている彼にとって名刺を出す場所なんてそんなにないのに。でも、彼にとって「社会と結びついている」ことを確認するための大切な道具だ思っているとしたら・・・、愕然として、その後に涙が出てきた。
今はPCで簡単に自宅で名刺を作れる時代だというのに、それも知らず、自分が支店長をしていたことのある日本橋のたぶん知り合いの印刷屋さんにわざわざ名刺作りを頼んだっていうのが、さらに、その店がわからず道に迷ってしまったというのが・・・哀しい。