助けあいジャパン

August 4, 2011

「コクリコ坂から」


当直明け。一晩中バタバタで診察台で仮眠2時間。体中バリバリで目覚めた。午前、午後とルーティンの仕事。当直明けの睡眠不足ってフィジカルにはヘロヘロなのにメンタルには「妙にハイ」な状態。夕方以降の予定が特になかったので、「コクリコ坂から」(宮崎吾郎監督(息子のほう)、スタジオジブリ作品)へ。

結論からいえば、スゴく良かった。特に先入観なく、大きな期待をしないで観たけれど、海と俊が坂道を一緒に降りるシーンと、最後の横浜港のシーンでは不覚にも涙が出てきた。1963年の横浜が舞台。ストーリーは、決して奇を衒っていない淡々とした流れ。あの時代の女の子と男の子、家族、温かい視線で見守る大人達を描いている。従来のジブリのメルヘンの世界を意識的に排除したリアルな描写が、素晴らしい。明治時代に立てられた岡の上に立つ洋館。たぶん根岸から本牧にかけてのエリアの情景。山下公園、ホテルニューグランド、マリンタワー、氷川丸、桜木町駅など、当時の横浜の風景が描かれている。1957年生まれの僕としては、どこかで「かすっている」空気感、単なるノスタルジーとは違った不思議な世界。舗装されていない坂道が普通だった時代。高校の生徒たちのリベラルで活き活きした姿。戦後民主主義(という虚構)を大人も子供も信じていた。男女共学のリベラルな(たぶん)名門高校の世界。旧制高校的な前時代的な設定は大仰ではあるのだけれど、僕は好感と憧れをもって観た。その後の日本の高度成長期を支えた人たちの若い頃の姿が、レスペクトと温かい目でそこに描かれている。ストーリー的にはありがちは設定で、作り方によってはスゴく陳腐になるところを、バランスを巧くとって進めた宮崎吾郎監督を見直した。というか、この作品に感じる品格の高さと質の良さには唸ってしまった。実写の作品にはないこの空気感や匂いや音も好き。☆☆☆☆1/2 

「昔は素晴らしかった、でもそれに較べて今の若者は・・・」的な文脈ではなく、映画の世界に僕は素直な驚きとレスペクトとシンパシーを感じた事を書いておこう。

①あの時代の高校生は、自分たちの未熟性と発展途上の可能性を自ら認めて「学生」という社会的役割をしっかり演じていたこと。
②だから、自分を高める努力をする事、勉強する事に何の疑問も持たず、真摯に生きていたこと。向上心があり夢を持っている。一言でいえばピュア。
③子供は子供の言葉があり、大人には大人の言葉があった。社会のルールがあり、礼儀正しい、節度ある人たち。
④子供は大人を自然にレスペクトし、大人は子供を信じられた社会。1970年代半ばから確実に変わったこと。
⑤自分でご飯を作り、皆で食べて、一緒に寝る。今とはプライバシーの感覚が違う。みんなで「寄り添って」生きている。
⑥きっと今と較べれば電子レンジもないし、冷凍庫もないし、自由にお湯を使えるシャワーもないし、エアコンもなし、ウォッシュレットだってない(笑)とんでもなく不便な生活だった筈なのに、不平不満を言わずみんなで「工夫して」生きている。
⑦学園紛争、民衆闘争(ひいては市民運動)、左翼的リベラリズムを是とする風潮。まだ「終戦後何年」という時代。
⑧今より明日の方が善いことがある筈だ!と皆が信じられた時代。

311の大震災後の日本人にとって、我々の原点を気付かせてくれ、「上を向いて歩こう」と、元気づけることが出来る映画だと思った。

海ちゃんと俊君はその後どういう人生を送ったんだろう?と想いを馳せつつ・・・余韻に浸っている。
=============

追補:今朝になって改めて考えてみると、1963年当時に高校生だった人たちっていうのは、僕らの世代より10年くらい上の先輩たちの世代なのだ。昨日はずいぶん上の世代(親くらいの世代)って勝手に思い込んでいたんだけれど。だとすると、このストーリーの(僕の空想上の)続編のストーリーはずいぶん変わってくる。
Powered By Blogger