June 1, 2010

ヒーローショー



去年、医学監修をした井筒和幸監督作品「ヒーローショー」を観てきた。「有頂天ホテル」「デス・ノートThe Last Name」に引き続いての映画の医学監修。結論からいえばすごく面白かった。井筒さんらしい、硬質だけど仄かに温かい部分が印象的な映画だった。

千葉の勝浦という東京から近くて遠い場所の設定もいい。夜の場面の暗さは井筒さんの好みなんだろう。若者達の暗いため息が映像化されているみたい。東中野の中途半端な都会という設定も絶妙。お笑いのジャルジャルの二人の達者な演技に驚いた。失礼ながら、予想以上の出来。鈴木ユウキ役の福徳秀介くん。優柔不断な頼りないどうしようもない男の子の役を巧く演じていた。石川勇気役の後藤淳平くんも、ともすればスゴくクサい演技になるところだけど、いい感じで抑えてあって垣間見える「狂気」をうまく演じていた。凄みさえ感じる狂気の目。この二人を見いだしてその才能を引き出した井筒さんはさすがだと思う。

鬼丸役の阿部亮平君もその凶暴なキャラを上手く演じていた。巧みな役者さんだ。僕の医学監修の場面は、その鬼丸が勇気のところに復讐にやってくる場面。なかなかリアルだったな(満足>笑)。

あさみ役のちすんという女優さんも現実的な存在感がある役者。薄幸で愛に飢えているバツイチ女を上手に演じている井筒組の定番女優らしい。さらに、勇気の母親役で出ている結城しのぶさん。昔から大好きな女優さんなのだ。はすっぱで、ちょっと疲れた意地悪&性悪な女性を演じさせたら最高(笑)。もともとは正統派美人でNHK的な女優さんだったんだけど、今の方がずっといい感じだと思う。

ストーリーはR−15指定で、暴力シーンが強調されてしまうんだけれど、映画のテーマそのものはわりと深い。あの世代の若者特有の怒りとか不安とかだけでなく、現在の世の中のどん底でどうしようもない状況で追いつめられていく若者達のストーリー。携帯電話の使い方も絶妙。仲間内の「ワルぶる空気」とか「吐き出しきれない怒り」とかの「勢い」で後戻りできないところまで行ってしまう・・・という不条理なドラマ。そこに「不器用な恋愛」があったり、仄かに見える「夢」があったり、家族という「救い」がちょっとだけあったり。井筒脚本、巧み。観終わって「真夜中ののカウボーイ」のジョン・ボイドを思い出した。

いい映画で映画を観る人たちには評価されるんだろうけど、一般受けしないだろうし、大ヒットはしないだろうな(涙)。それが日本映画の厳しい現実かも。

エンドロールの最後にちょろっと名前が乗っているのがうれしかったです。井筒さん&藤澤さん、ありがとう!