助けあいジャパン

April 18, 2010

百科事典

その昔たぶん1980年代までは、わりと多くの家庭は自宅に百科事典を持っていて、大判のしっかりした装丁の百科辞典が本棚に並んでいるものだった。ブリタニカとかアメリカーナとか。我が家には英語版と日本語版の平凡社の大百科事典が客間に鎮座していた。母方のじーさんが初の男孫の僕の事を溺愛していて「これからは英語じゃ、洋書が読めなくちゃいかん、これを読め!」ということで10歳くらいの誕生日プレゼントとして大きな箱を送りつけてきて(笑)、オフクロが困っていた(そんな立派な本を入れる本棚が当時の家にはなかったし)のを憶えている。もちろん、当時の僕には嬉しいはずもなく(笑)、ページを捲りながら写真とか絵をみていた。ページのレイアウトとか図表がユニークでセンスがよくって、飽きずによく眺めていたものだ。それから、日本の本とは違う、仄かに甘い印刷の匂いが好きだった。

本棚に立派な百科事典が並んでいる・・・というインテリア的な意味(当時の日本人は欧米のインテリ家庭を至上のものと思い込んでいて、彼らの自宅の「書庫」に多くの立派な本が並んでいるのに大きな憧れを持っていたんだろう)と虚栄心が満足させられ、(隣でも買っているのでウチにも的な>笑)購買意欲をかき立てられたという「判りやすい」効果があったことは確かだ。その後僕が英語好きになるきっかけとなったとか、印刷の匂いフェチになったとか、後付けでいくらでも「そのほかの影響」はあったとは思う。でもはっきり言って無駄使い(たぶんかなり高かったと思う)であったことは確かだ。今の時代では考えられないことだけど。

でも、なぜあの当時のあんなに大きな本を自宅に所有するということが流行ったんだろう?セールスの上手さだけではないと思う。スゴく高いし、大きいし、すぐに古くなってしまう情報なのに、それを恭しく置いておくという風潮はまさに昭和のアノ時代の空気だったんだろうかと今思う。そこそこ知的な興奮と満足感が得られるし、教育熱心な家庭(に他人に思われる)「必需品」アイテムだっただろうし、山の手の小市民的な虚栄心を満足させるものだったんだろう。

とはいえ、これは決して否定的な文脈で書いているわけではなく、高度経済成長の真っただ中にあった当時の日本の社会の上昇志向とか、家庭の真面目さとか教育に対する熱心さとかを表していると思う。少なくとも僕はじーさんの送ってくれたあの百科事典に、かなり影響を受けたことは確かなのだから。
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