先週、あるご縁があって入院した患者さん。プライバシーの問題があるので詳しくは書けないけど、彼の襖絵や油絵は大英博物館の所蔵品になって展覧会を開く位の日本画家の重鎮。帝国海軍の特攻隊員だったという修羅場を乗り越えて、絵筆をとる道を選んだ。そこには常人の計り知れないドラマがあったんだろう。パリに住んで35年、84歳。先週、成田空港から直行して入院となった。
すごくピュアな方なのだ。失礼な言い方を承知で表現すれば、かわいい爺さん。体力がかなり衰えていて、お話する言葉も不明瞭なのだけれど、眼光は鋭く瞳は輝いている。
そんな彼から画集をいただいた。「生命と平和」。これがスゴイ。絵画のことはよくわからないけど、物凄いエネルギーに満ち溢れている。あの枯れ木のような爺さんが表現したものなのか!と、驚きとともに、正直ぞくぞくした。この画集を眺めていると彼の訴えようとしたものが、僕の心のどこかに確実に響く気がする。月並みな比喩なのだけれど、静かで重厚な音楽が響いてくるような・・・そんな感じというか。
「Yさん、いただいた画集を拝見しました。絵のことはよくわからないのですが、なんだかすごくぞくぞく、わくわくしました。」
「・・・・・(笑)。ありがとうございます(合掌)」
どんな些細なことでも彼は合掌し、みんなに感謝するのだ。
遠くを見つめる瞳。この瞳であの絵が描かれたのか・・・。
診察をしつつ、彼に聞く
「ひとつの絵を描くのにどのくらい時間がかかるのですか?」
「早いもので半年くらい・・・ですかな。気持ち(・・・と僕には聞こえた)ができるまで待つんやね」
本物のアーティストの言葉の重さ。