May 8, 2008

踵が痛かったコロラドの夏:フィクション

1979年と1982年の旅の事を下敷きにしてフィクションのプロットを書いてみた。さとなおさんの紀行文を読んでいたら、久しぶりにアメリカに行きたくなった。アメリカのディープな中西部にはここ10年は行ってないんだ。
=====================================

両側の踵が腫れて痛かった。特に右が痛い。今更、フライ(Fry)のブーツを買ったことを後悔しても遅い。一昨日、シカゴのダウンタウンの靴屋で見つけたそのウェスタン・ブーツは僕好みのシンプルで完璧に美しいデザインだった。一目惚れだった。ほとんど目立たないけどトップに多少の傷があるということで、定価250ドルのものを100ドルでいいという、おしゃべりなメキシカンの店員の軽い言葉に騙されて、本来のサイズ(8)より半サイズ小さかったのを衝動買いしまったのだ。

問題ないよ、ウェスタンブーツは小さ目がおしゃれなんだ、シュー・ストレッチャーで君のサイズにすれば完璧だよ。今は夜だから多少きつくても、朝になれば最高にゴキゲンな君のブーツになるよっ!

ブーツを買った次の日の朝から、自分の甘さに気付いた。彼に騙されたというより、自業自得。足を引きづりながらその後の旅を続けなくちゃいけない事態になったことを後悔した。やれやれ。

シカゴからサンフランシスコ・ゼファー。まるまる36時間乗り続けて、デンヴァーに向かう。コンパートメントは快適。ブーツは履かずに裸足で過ごしたし(それまで履いていたワークブーツはあのファッキン靴屋で、捨ててしまったのだ)、どこまでも続く地平線を見続けるというアメリカ中部を列車が進む間、それまでの自分の人生の中で経験したことがないほど、ゆっくりとした時間の流れを経験したのだった。

ささやかな出会いがあったり、ほんのちょっとだけ記憶の襞に染み付くような感情の揺らぎがあったにしても、とにかくその36時間は、着実に、刻々と、そしてゆっくりと流れた。猶予も寛容も偏見も逡巡もなく、確実に、過ぎた。平原に沈む見たこともないような大きな夕陽を観ながら、長い手紙を書いていた気がするけど、だれにどんな内容の手紙を書いたかは今記憶にない(そのくらい昔のことなのだ)。

そしてその後に続く長い夜の中を、列車は西へ向かった。

翌日の昼前に、デンヴァーのダウンタウンにある駅に着いて、列車から降りて深呼吸をすると、コロラド乾いて熱い空気が、鼻腔を直撃して、むせそうになったことを憶えている。駅に隣接するハーツに寄り車を借りる。これからボウルダーに立ち寄り友人を訪ねてから、コロラドスプリングスを経由してプエブロに向かうのだ。(続く)