明朝早くに、おやじの一周忌に名古屋に向かう。もうあれから1年なのか。
時の流れの速さに驚くのはいつもの事だけれど、この1年間の時の流れは本当に早かったと思う。ここで告白するけれど、おやじのことを思い出さない日(朝)はなかった。そのくらい彼をレスペクトしていたし、彼が僕にくれたものを思い感謝する日々だった。彼は僕のヒーローだった。
去年の12月。自由が丘で友人と飲んでいたら、おふくろから電話があった。ただ事ではない雰囲気。でも医師としての僕はその時、「ああ、その時が来たな」と、すごく冷静に思った。彼の大動脈瘤が破裂するリスクがあることは、半年以上前に判っていた。彼の考えていた通りの死に方だった。
その半年くらい前の彼との会話。
「おやじ。医者としての意見を言うけれど、おなかの大きな動脈が腫れていて、このままでは1年以内に破裂する可能性があると思う。手術するか?手術すれば今後5年は生き延びる可能性は高まる。でも手術しても後遺症で苦しむリスクもある。どうする?その道の権威は知り合いだから紹介できるけど。もしおやじはが望むならすぐ連絡するぜ。」
僕は彼の答えは判っていた。彼は何も言わなかった。ただ笑って言った。
「雨が来そうだ。早く帰れ。なおこさんと仲良くしているか。子供達は元気か? 四の五の言わずに、早く行け!」
医師としていろんな人生の最期を看取って来た経験からいって、これ以上幸せな死に方はないだろうという位の、穏やかで静かで苦痛のない人生の幕の引き方。あっぱれな死に際だった。
親父と息子は何も話さなくてもわかるのだ。