July 12, 2010

桃李抄・後日譚もろもろ

桃李不言下自成蹊 「桃李いわざれども、下自ら蹊を成す」
高校の漢文で習うよく使われる成句。僕もこの言葉が好きでよくこの言葉を引用する。桃や李(すもも)は自ら何も主張もせず、宣伝もせず、ただそこに在るだけなのに、その香しい香りに惹かれて人が集い、往来ができ、次第に径から蹊となり、往来から道、最後には路となる。桃李のその謙虚で自然な様、中国文化の悠久な時の流れの雄大さ、たった8文字の漢字で示される、空間的にも時間的にも深みのあるドラマ。ううむ、素晴らしい。

とまれかくまれ
今日の寓話はそこから始まる。
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桃李の下にできた往来から、人が人を呼び、商売が始まり経済活動の発展と拡大とともに集落ができた。一次産業の基盤が整い、さらに人が集い、二次、三次産業も成熟し、有機的な力を持った社会が形成され、コミュニティのルールや習慣風習、そして文化も生まれていった。初めは「桃李」の木立しかなかった川辺の場所。その下にできた単なる往来から、今や「社会」へどんどん発展しているのだ。

それを見ていた北の隣国の小賢しい役人が来て言った。

「桃と李だけで、何もないこの土地にこれだけの街を形成できたのは素晴らしいことだ!我々の国に、ひどく荒廃した場所がある。この素晴らしい「桃李」を持って行って移植すれば、きっと同じようにその荒廃した土地に人が戻り、新しい街に生まれ変わる事ができるだろう。ここまで街が出来上がり社会がしっかりしていれば、もうこの街には桃李は要らないだろう・・・。」

「いいえ、お役人様、それは困ります。痩せた土地しかなく天候にも恵まれないこの土地に、多くの人々が集ってくるのは、この桃李というシンボルが在るからなのです。桃李は何も言わず何もしないのですが、そこに存在することが大切なのです。」

「理のないことを言うな。そうか!お前達は我らの足許を見て吹っかけているのだな。100億元を用意した。受け取るがいい。さもなくば我らが軍を持って力づくでも持って行こうぞ。」

村人達のささやかな抵抗も空しく、桃李の木々は北の国へ略奪されて行ったとさ。
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ここで次の展開を考察する

①桃李を移植した北の国には予想通りの新しい街ができ、今の北京となり、桃李村はその後も発展をつづけ、後の上海というアジア最大の貿易港にまで発展したとさ。んなわけないわな(笑)

②新しい村に移植された桃李は枯れて一つの果実さえ実らず、復興どころか寂れてさらに荒廃が進んだ。これは後に「桃李の呪い」といわれたという。さらに、桃李を略奪されシンボルを失った村人たちは、徐々に離散し、今まで積み上げてきた対外的な信用を失い、国力はさらに弱まり、結局は強国である北の隣国に吸収合併されてしまったとさ。やれやれ(笑)。

③新しい村に移植された桃李はそこそこに咲いて果実を実らせたが、以前の輝きはなくなり期待されるほどの効果はなく、以前と同じ事は起こらなかった。さらに、その下を通る旅人達は民度が低く、前の場所のように木立の下に蹊を成す以前に、その木立を切り倒してどこかに持って行ってしまったとさ。一方、100億元のキャッシュを得た桃李村の人々は、次のa) or b)の結末へ。

a) 皆で知恵を出し合いマネーゲームで勝利を収めた。その後、枯れそうになっていた桃李をたったの100元で買いとり、元の川辺に戻して余生を送らせたとさ。(救いはあるけど面白くない結末)

b)大金に目がくらみ、今までやっていた地道な仕事をせず怠けまくったので村は崩壊の一歩手前まで荒廃したとさ。(「教訓」としては一番ありえる話かもな)


別のプロットとして
④新しい場所に移植された桃李はあっという間に枯れ果ててしまったが、小賢しい役人はそれを認めようとしない。そこで別の場所から「なんちゃって桃李」を持ってくる事にして体裁を整えようとした。彼らはその効果についてはもちろん信じていなかったのだか、あーら不思議、香しい香りを放つ「なんちゃって桃李」でも十分に機能してしまったのだ。期待通りに新しい街ができて、ほくそ笑む役人達。
この愚かな役人達は「この方法で、国中の荒廃した土地に街をたくさん作ろう!」と、ありったけの国費を費やして桃や李を、国中の荒れた土地に植えたのだった。その結果...国中が桃と李のいい匂いに満たされてしまい、人々は仕事をしなくなり、怠惰で放蕩の限りを尽くす生活になり、数年もしないうちに国が滅びたとさ。(あーあ、実際にはこんな愚かな事もありえる・・・けどね。やれやれ)