February 8, 2007

見事な幕の引き方

忘れられない一日。Sさんが逝った。数日前からいわゆる危篤状態であり、奥さんによると様々な身辺の整理も済ませたとのこと。

朝、どうしても話がしたいと連絡が入る。昨夜の緊急入院のばたばたで。いつもの朝の回診が中途半端でできなかったのだ。外来を途中で中断して、すぐに病室の彼を訪れる。モルヒネで朦朧としている意識の中でも、しっかりと自分の言葉で「区切り」をつけようとする彼。自分の人生に後悔はないと、そして献身的に看病する奥さんへの感謝の言葉のあとに、スタッフと、医者の僕にも身に余るような感謝の言葉をくれ、僕と彼はしっかりと握手した。出会えてよかった、と。25年医者やっていれば、わかる。

もう頑張るのはいい・・・ゆっくり休みたい、と、最後に彼は言った。そして微笑んだ。

僕もうなずいた。僕もこの出会いを神様に感謝した。

その4時間後、本当に安らかに眠るように、彼は逝った。
これほど見事な幕の引き方を出来る人は、そういない。
すごく魅力的な人で、もっと話がしたかった、と残念でならない反面、こんな幕の引き方のできるなんて、本当に幸せな人だと思う。

Sさん。享年50歳。1956年生まれで僕と同級生だ。
どうぞ安らかに・・・