August 25, 2006

夏休み2006(プロローグ;小説)

5時起床。かみさんを起さないように、ベッドを出る時、彼女の肩口がちょっとだけ動いた気がした。何も言わないけど、きっと気付いているんだろうな、って思った。

2年ぶりに夏休みをとることにした。

夏休み、いいじゃない、あなたには休みを取る権利はあるわ。このところ忙しかったみたいだもの。
思いっきりどこかに行ってくれば・・・どこかにいきたいんでしょ。ふふふっ、と笑って、昨夜彼女は言った。子供達も成長し、予約をしていく旅は、僕達はかなり前に卒業した。

少しずつ明るさを増しつつある朝のテラス。先々週2回目の花の散ったアネモネの葉の先に、小さな水滴が残っている。昨夜は淡い雨の落ちる静かな夜だったが、未明にはいつのまにか雨も上がったのだろう。暑いシャワーを浴びて、昨夜の酔いを醒ます。微かに残っていた吐息に残った昨夜のアルコールも、汗とともにできったようだ。西の空に高い雲。北西に向かう今の季節としては珍しい風にのり、動いている。

テラスのちょっとだけ湿っぽい風を頬に受ける。まだ夏の香りが残っているんだな、って思った。グレープフルーツジュースをグラスにたっぷり。心地よい酸っぱさが、まだ眠っている胃をやさしく起してくれる。そろそろ出発しようか、今日はパソコンの電源は入れない。いつもは起きて反射的に電源をつけるテレビも今日は静かだ。

まだ人のまばらないつもの駅。心なしか早足で向かう。手ぶら。携帯電話は書斎のデスクに置いていくことにした。ちょっとだけ迷ったが。だって夏休みをとるのだ。いつものしがらみから飛び出すとすれば、携帯電話を持っていくこと自体矛盾してるだろう。

北の方向に向かうことだけは決めていたが、電車に乗ってからどこに行こうかを改めて考える。三陸海岸から下北半島に行きたい。そう思った。荒い磯と切り立った崖の東北の海を見たかった。半蔵線を渋谷で下車。山手線で上野へ・・・。